PICP-1157先日リリースされたサンドラ・クロスの新作です。
「これはジャズじゃない!」と言うガンコなジャズおたくもいるかもしれない。 「これわレゲエでわない!」と言うヘンクツなレゲエおたくもいるかもしれない。 どちらも正しい。 だってこれはジャズともレゲエとも違う新しいコンセプトの音楽 「ジャズ・レゲエ」なのだから。
レゲエおたくなワタクシには、「ジャズ・レゲエ」と呼ぶよりも、 「レゲエ・ジャズ」、「レゲエ・スウィング」と呼ぶほうがしっくりと来ます。 でも、もしかしたら逆のことをジャズおたくは言うのかもしれない。 まあ名前なんかはどうでもいい。なんなら「レジャゲズエ」なんて命名してもいい(笑) このアルバムの基本的な意図は、ジャズおたくを唸らせることでもなく、 レゲエおたくを満足させることでもなくて、 確信に至った新しいコンセプトを証す確信犯的な仕事なのだろうと思います。 肝心なことは、このコンセプトがどれだけ心に響くかということでしょう。
全体を聴いて感じることは、ライナーでも述べられているとおり、 ジャズのジャズらしい部分とレゲエのレゲエらしい部分が、 お互い遠慮し過ぎず、かと言って出しゃばり過ぎず、 実にうまい具合に溶け合って、とても「いい感じ」を醸しているということです。
レゲエっぽいジャズではない。ジャズっぽいレゲエではない。 そのどちらかを期待する人にももちろん聴いてみて欲しいけれども、 レジャゲズエを「感じたい」人にこそ、このアルバムをオススメします。
ひとつだけレゲエおたくのわがままを言えば、 このアルバムの選曲にはジャズのスタンダードが多く選ばれていて、 そのためジャズのカラーが最初からとても目立ってしまっている面もあると思うので、 次作ではたっぷり時間をかけて、さらに意欲的な選曲を期待したいです。 というわがままを言えるのは、本作がただの「レゲエっぽいジャズ」 を楽々と超えていると確信できるからでもあります。
最後になりましたが肝心の主人公、サンドラ・クロスのヴォーカルについて言えば、 この新しい「レジャゲズエ」を、 あたかももう10年も20年も歌っているかのような 余裕に満ちた歌いこなしに感服するのみです。 ワタクシが最も圧倒されたのは 9 My Baby Just Cares For Me. この曲のアレンジはややアップテンポなジャメイカン・スウィング、 つまりスカにとても近いもので、それも気持ちいいのは確かなんだけど、 その上で歌うサンドラの逆にクールなこと。 このコントラストは見事です。ボサノヴァの名曲 7. Agua De Beber (おいしい水) も、 これは何度も録り直したとのことですが、なんとも言えない、いい感じ。
このアルバムは私にとって「やりきれないとき」と「しあわせをかみしめるとき」 の両方に効く、とっときの常備薬になりそうです。
本作のエグゼクティヴ・プロデューサー、花房さんのホームページ THE VOICE OF SILENCE を訪れてみてください。 プロダクション・ノーツや制作経過のレポートなども載ってます。
なお、このレビューにて勝手に「レジャゲズエ」なんて変てこな造語を用いたことを花房さんにお詫びします。